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最高裁判所第一小法廷 平成6年(行ツ)155号 判決 1994年10月27日

東京都品川区西五反田一丁目二四番四号

上告人

タキゲン製造株式会社

右代表者代表取締役

瀧源秀昭

右訴訟代理人弁護士

渡辺秀雄

弁理士 増田守

東京都大田区山王四丁目一二番二号

被上告人

有限会社三真

右代表者代表取締役

真壁英雄

右当事者間の東京高等裁判所平成五年(行ケ)第六〇号審決取消請求事件について、同裁判所が平成六年五月一七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人渡辺秀雄、同増田守の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大白勝 裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達 裁判官 高橋久子)

(平成六年(行ツ)第一五五号 上告人 タキゲン製造株式会社)

上告代理人渡辺秀雄、同増田守の上告理由

第一点、原判決には、判決に影響及ぼすこと明らかなる法令違背から、破棄を免れない。

一 原判決は、「本件意匠及び甲号意匠の基本的構成態様は一致しているものと認められるが、意匠に係る物品(配電盤扉用ハンドル)の用途及び使用態様に照らすと、この基本的構成態様は、いずれも意匠としてのまとまりを形成するものとして看者の注意を強く引くもの、すなわち、要部であると認めるのが相当である」旨判示した。

二 然し乍ら、上告人提出の甲第四号証ないし甲第七号証に示すとおり、配電盤扉用ハンドルの分野で、前記基本的構成態様に近似した意匠の形態が本件意匠及び甲号意匠の出願前に出願され、この種の分野では周知或いはありふれたものになっていたのであるから、原判決としては意匠の類否の判断に当たって、前記基本的構成態様を要部として重視或いは過大評価することなく、背面側の係止板、函体の具体的形態を含めて全体観察により総合的に判断すべきが当然である。

ところが、原判決は、「甲第四ないし六号証の意匠には、例えば前面板の周縁に傾斜面を巡らせたり、押しボタンを現すという構成が欠如しており、また甲第七号証の意匠には、例えば係止板が設けられていないのであって、・・・・甲号意匠の基本的構成態様と相違するものであり、したがって、上記基本的構成態様は、本件意匠の出願当時周知あるいはありふれたものであったとは認め難い」という。

たしかに、甲第四ないし第六号証の意匠には、前面板の周縁に傾斜面を巡らせたり、押しボタンを現すという構成が欠如していることは、原判決の指摘するとおりであるが、縦長長方形の前面板あるいは扉に縦長長方形の開口部を設けて、この開口部内に上面を面一ないしはほぼ面一とする回動ハンドルを開口部いっぱいに埋め込むという構成は、配電盤扉用ハンドルの分野ではありふれたものであったことは明白である。特に、甲第七号証には係止板が設けられていない点を除けば、前記基本的構成態様と全く同様の意匠が記載されているのである。

原判決は、一方で、「本件意匠及び甲号意匠の物品である配電盤扉用ハンドルは配電盤収納箱の扉に用いられるものであって、扉が閉鎖されている通常の状態においては、背面側を見ることはできないものであり、したがって、取引者、需要者が、背面側の具体的形態に意匠的関心をもって購入等の選択をするものとは考えられない」と説示しながら、本件意匠及び甲号意匠の出願前の配電盤扉用ハンドルの周辺意匠の認定に当たっては、背面側の係止板が設けられていない点を挙示して、前記基本的構成態様は右周辺意匠には認められない、「上記基本的構成態様は、本件意匠の出願当時周知あるいはありふれたものであったとは認め難い」と判示するのは、論理的矛盾ないし理由に齟齬があると云わなければならない。

三 本件意匠と甲号意匠とは、その基本的構成態様がほぼ同一だとしても、この基本的構成態様は前記のとおり、周辺意匠特に甲第七号証にも認められるところであるから、両意匠の類否判断に当たってはこの点を要部として重視或いは過大評価してはならず、背面側の係止板、函体の具体的形態を含めて全体的に観察すべきものである。然らば、本件意匠と甲号意匠との間には、係止板及び函体の具体的形態において、極めて顕著な差異が認められるばかりか、後記のとおり、押しボタン形状にも顕著な差異が認められるのである。これらの差異は、両意匠の基本的構成態様の共通感を超えて類否を支配するもので、両意匠を全体として観察すれば到底類似するものとは云えないとの結論に到達する筈である。

四 更に、一歩譲って、原判決のいうように、「この基本的構成態様は・・・・看者の注意を引くもの、すなわち、要部であると認めるのが相当である」としても、その要部に相違点があるときは、全体的に異なった視覚的印象を与えるものであることはつとに指摘されているところである。

原判決は、両意匠の基本的構成態様を文字で表現するにあたり、「余白部中央に押しボタンを現し」というだけで、押しボタンの形状については全くふれていないが、本件意匠における押しボタンは略偏平四角柱形であるのに対し、甲号意匠における押しボタンは略偏平円柱形である。本件意匠は、押しボタンを略偏平四角柱形とすることにより、意匠全体のモチーフを角張ったものに統一し、整合性と同調性をもたしているのに対し、甲号意匠は、押しボタンを略偏平円柱形とすることにより、意匠全体としてのモチーフにおいて統一性と整合性を欠如せしめた破調整の高いものとしている。この両意匠の要部内における押しボタンの形状の顕著な差異は、看者に意匠全体に異なった視覚的印象を与えるものである。特に、前面板、函体、押しボタン、及び係止板という比較的少ない部品の集合体であるこの種のハンドルでは、押しボタンの形状は重要な意匠構成要素の一つなのである。

然るに、原判決がこの点に思い至らず、両意匠の押しボタンの付設位置が共通していること、押しボタンが前面板に占める面積的割合はほぼ同程度であること、押しボタンの形状は両者ともありふれたものであること、などを理由に、上告人の前記主張を排斥したのは、失当と云わざるを得ない。

前記のとおり、比較的少ない部品の集合体であるこの種のハンドルにおいては、押しボタンの形状は重要な意匠的構成要素の一つであり、しかも、「円」と「四角」とは、意匠的構成要素の両極にあるものである。特に、配電盤扉用ハンドルで押しボタンは需要者がその位置を確認し、押圧操作するところで最も注視される部品である。然らば、押しボタンの形状の右差異は押しボタンの設置位置、その面積的割合の共通性ないし同等性を凌駕して、両者の間に全体的に異なった視覚的印象を与えるとの結論に至るのが当然である。

このことは、押しボタンを略偏平角柱形にした配電盤扉用ハンドルの意匠は、第三二三六三二号の類似第一号の意匠公報(甲第八号証)、第三二三六三二号の類似第二号の意匠公報(甲第九号証)、第三二五四五三号の意匠公報(甲第一〇号証)、第三二五四五三号の類似第一号の意匠公報(甲第一一号証)、第三二五四五三号の類似第二号の意匠公報(甲第一二号証)、第四二〇二一二号の意匠公報(甲第一三号証)に示されているように、甲号意匠とは非類似の意匠として、他にも多く登録されている事実が示すとおり、この種意匠の分野においては、円柱形押しボタンと角柱形押しボタンは、意匠全体としての構成と美的印象の双方において大きな差異を生み出すものであると、広く認識されていると云いうることからも理解し得るところである。

五 以上のとおり、原判決には、意匠法第九条の解釈・適用を誤った違法があり、右は判決に影響及ぼすこと明らかであるから、破棄を免れないものと確信する次第である。

以上

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